初心
リフォームの仕事をしていますとリピートのお客様から
ご相談を頂くことが度々あります。
少し前になりますが、今までの中で一番古いと思われる
ご連絡を頂きました。
何と17年前、私がリフォームを始めて数年目
のお客様です。
今回のご相談は以前リフォームをさせて頂いた部屋を
再度リフォームするか売却されるか悩んでいるとのことで、
リフォームする場合の内容やお見積りのご相談でした。
この案件はとても印象が強かったのですが、
その当時、記録を残していたので17年前の
自分の記録を少しかいつまんでスピーチにさせて頂きます。
10月8日
現在、ご相談を受けているお仕事、
76歳のお母様のご自宅の住宅改修。
お母様はマンションでのお一人暮らしだったが
つい最近まで元気に旅行に行っていたのに
動脈瘤破裂で入院、手術をされ、下半身が完全に
動かない状態になり、退院後は車椅子のご生活になるという。
ご相談者は娘さん。
ケアマネさんやお医者様の案と、お母様のご希望を
すりあわせつつ基準となる工事をプランする形。
私は、お客様には言えないけれど、実地での
こういう住宅改修は初めてになる。
でも、お客様にとっては「相談したいプロ」になる。
お客様の真剣さを受けて、私も真剣に取り組んでいる。
その中で、お母様がトイレは自立でしたいとの
強い希望なので、そのようなプランを第一優先と
して欲しいと相談を受けた。
現場の条件を踏まえつつ、床をフラットにしたり
三枚引戸で開口を広げたり、車椅子で入り、自力で
便座にいざるために必要な部屋の寸法や座位など
いろいろ図面に書き込んで提案をさせて頂く。
ケアマネさんや先生に確認して頂いたが
やはり介助なしではトイレは無理との回答。
娘さん曰く、お母様は自分の力でトイレをしたいと
いう思いがとても強く、介助の話をきいたら
とてもしょげてしまったとのことで、
私もとても切ない。
11月6日
お客様よりご依頼を頂く。
お客様は、私が住宅改修に不慣れだとすっかり
見抜いていらっしゃった。
でも熱意と一生懸命取り組む姿勢にかけようと
思ってくださったとのこと。有難い。
「知らない事はちゃんと調べてやってゆけば
大丈夫だと思う。熱心さでカバーして、今回の
事が経験になればと思う」とまで言って下さる。
病院にお伺いし、お母様にご挨拶させて頂く。
車椅子に乗って廊下でお会いしたら、涙を
浮かべて「なんだかじーんときちゃって、
どうぞよろしくね」と言って下さる。
完工後。お邪魔する機会がありました。
1月15日
私がリフォームをしたへやに電動式ベッドや
ポータブルトイレなど入っているのを見た。
私にとっては完工だが、お母様にとっては
これからがスタート。
以前は旦那さんと従業員を雇ってお店を
営んでいらしただけあり、しゃきっとした元気なお方。
色々お話する中で、印象的だったお母様の
言葉は、笑顔で仰った、
「死ぬときは笑顔でいきたいじゃない。
それじゃお先にね!ってね」
というもの。
そして17年後の今、その後をお伺い出来ました。
お母様はこの部屋に三年ほどお一人でご生活され
その後は施設に入られ、数年前にお亡くなりに
なったとのことでした。
その時、私に話して下さったように
笑顔で逝かれたのかなと思いました。
リフォームをしたお部屋にも、三年ですが、
住んで頂けたことを知る事ができて、
とても嬉しかったです。
結局、リフォームはされず売却の方向で
考えることになったそうです。
こういう機会がないとすっかり記憶の奥に
埋もれてしまいますが、
色々と思いだせたり、記録を見返したり、
つくづく家に携わるという事は、その人の
人生の一部に関らわせて頂くことでもあるのだなと
思った次第です。