不動産は親が生きているうちに名義変更すべき?生前贈与と相続の判断基準と節税方法を解説
2025.12.20
2025.12.26

親御さんが所有する実家や土地について、「元気なうちに名義を変更しておいたほうが良いのか」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
不動産は預貯金のように分けることが難しく、管理や処分には所有者の明確な意思能力が求められる資産です。
名義変更(生前贈与)の検討は、単なる「名前の書き換え」ではなく、将来の相続トラブルを回避し、資産を適切に次世代へ引き継ぐためのリスク管理といえます。
このコラムでは、相続による承継と比較した不動産の生前贈与のメリット・デメリットと、後悔しないための判断基準を解説します。
コラムのポイント
- 親御さんが生きているうちに不動産の名義変更(生前贈与)をすべきか、相続時にすべきか、どちらが良いかはケースバイケースで、さまざまな要素を踏まえて総合的に判断する必要があります。
- 不動産を引き継ぐ予定がある場合は、相続発生前に生前贈与や活用の計画を立てておくことで、税金や手続きの負担を抑えながら、スムーズに土地を引き継いで有効活用できます。
Contents
親が生きているうちに名義変更する方法「生前贈与」とは

生前贈与とは、亡くなる前に特定の人に資産を引き継ぐことを指します。
親御さんが生きているうちに、不動産や預貯金などの財産の一部を贈与で引き継いでおけば、相続時の遺産総額が減って相続税が節税できる場合があります。
ただし、贈与を受けた場合は財産の価額に応じた贈与税を支払う必要があります。
不動産を生前贈与で引き継ぐメリット

親御さんが生きているうちに不動産を名義変更する(贈与を受ける)メリットについて詳しく解説します。
遺産分割時のトラブルを未然に防ぐ
不動産は現金と異なり、分けることが難しい財産です。
将来の相続時に、相続人同士で揉めることが予想されるなどの場合は、生前贈与しておくことで、将来のトラブルを防ぎ、親御さんの意思を尊重できます。
相続人同士のトラブル対策としては、生前贈与以外に、遺言で引き継ぐ人を指定する方法もあります。
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親が元気なうちに確実に財産を引き継げる
親御さんが元気なうちに生前贈与で財産を引き継いでおくことで、病気や認知症などになった際にも売却などの対応がスムーズに行える点もメリットです。
例えば、親御さんが認知症などで判断能力が低下した場合、不動産の売却や修繕、賃貸契約などの法律行為ができなくなるリスクがあります。
元気なうちに名義を変更しておけば、本人の意思を尊重した上で、子世代が責任を持って適切な管理や、売却判断をスムーズに行えるようになります。
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早期に資産形成ができる
賃貸アパートなどの収益物件を早めに引き継ぐことで、家賃収入を子世代の資産として蓄積できます。
家賃収入により親御さんの相続財産が増えるのを抑えるだけでなく、子世代が将来の納税資金を準備することもできるようになります。
相続より手続きが簡単
生前贈与は、他に相続人がいても贈与する人(贈与者)と贈与を受ける人(受贈者)の2人が合意すれば手続きを進められるので、相続よりも手続きが簡単というメリットもあります。
相続で遺産を引き継ぐ場合、基本的に相続人全員の協力が必要となるため必要書類も多くなる他、相続人同士でトラブルが起こると手続きが思うように進まない可能性があります。
評価額の変動によっては税金が抑えられる可能性も
贈与税や相続税は、財産を移転する時点での評価額を基に計算されます。
将来的に再開発などで価値が大きく上がると予想される不動産は、評価額が低いうちに生前贈与しておくことで、将来の相続時よりも税額が抑えられる可能性もあります。
ただし、財産や状況によっては節税効果があまりない場合もあるため、不動産会社などの専門家に相談の上慎重に判断することをおすすめします。
生前贈与による名義変更の注意点とリスク

生前贈与にはメリットがある一方で、相続と比較して以下のような注意点やリスクがあります。
相続税より税金が高額になる可能性がある
土地を生前贈与された場合、金額に応じて贈与税がかかりますが、発生する時期をコントロールできない相続税よりも基礎控除が少なく、税負担が大きくなる点がデメリットです。
生前贈与・相続でかかる税金の比較
生前贈与と相続では、かかる税金の種類と税率が大きく異なります。
| 税金の種類 | 生前贈与 | 相続 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 基礎控除額 | 110万円/年 | 3,000万円 + 600万円×法定相続人数 | 相続の方が圧倒的に有利 |
| 税率 | 10~55% | 10~55% | 税率の範囲は同じでも控除額は相続の方が大きい |
| 登録免許税 | 評価額の2.0% | 評価額の0.4% | 相続は贈与の1/5で有利 |
| 不動産取得税 | 原則3%かかる | かからない | 贈与にのみかかる税金 |
上記のように、贈与税は相続税に比べて基礎控除額が少ないため、結果的に税額が高くなります。
また、相続時には不要な不動産取得税が発生し、登記の際の登録免許税も相続の5倍かかります。
相続では基礎控除の額も大きいことに加え、「小規模宅地等の特例」などさまざまな軽減措置もあるため、都心部など極端に評価額が高いエリアを除けば、基礎控除と特例の利用で土地の相続税がゼロになるケースも多いでしょう。
つまり、同じ財産を引き継ぐ場合、税負担だけで考えるなら相続の方が得になることが多くなります。
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小規模宅地等の特例などの優遇制度が利用できない
前述の通り、生前贈与の場合、相続時に土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」などの優遇制度が利用できないため、より税負担が大きくなる可能性が高い点もデメリットです。
ただし、相続税は相続した土地だけでなく、遺産の総額や法定相続人数によっても税額が左右されます。
かかる手間や費用などの負担も考慮して、どちらがご自身のケースにとって得なのかを考える必要があります。
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2024年税制改正で「生前贈与加算」期間が延長
2024年1月からの税制改正によって、暦年贈与における相続財産への加算期間が、令和13年までにこれまでの3年から7年へと段階的に延長されることになりました。
これにより、相続直前の駆け込み的な節税対策がしづらくなるため、より早い段階での計画的な承継が求められるようになります。
生前贈与加算の仕組み
生前贈与加算とは、相続で財産を取得した人が、被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた場合、相続税の課税価額に贈与を受けた財産の贈与時の価額が加算される仕組みです。
ただし、贈与税と相続税の二重課税を避けるため、加算された贈与財産に対応する贈与税額は、相続税の計算では控除されるようになっています。
(参考)国税庁ウェブサイト「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
生前贈与加算の対象期間の段階的延長
生前贈与加算の対象期間が7年に延長される予定は以下の通りです。
- 令和8年までに相続が開始した場合:これまでどおり「相続開始前3年以内の贈与」が生前贈与加算の対象
- 令和9年から令和12年までに相続が開始した場合:「令和6年1月1日以降の贈与」が生前贈与加算の対象
- 令和13年以降に相続が開始した場合:「相続開始前7年以内の贈与」が生前贈与加算の対象
なお、この改正により延長された期間に行われた生前贈与については、総額100万円まで生前贈与加算の対象にはなりません。
不動産の持分贈与における注意点
上記の生前贈与加算の仕組みを踏まえて、毎年110万円ずつ不動産の持分を贈与する方法は、理論上は可能ですが、注意が必要です。
①連年贈与のリスク
毎年決まった時期に決まった額の贈与を繰り返すと、税務署から「連年贈与」とみなされるリスクがあります。
連年贈与とは、初めから合計額(例えば1,100万円)を贈与する意図があったと判断されるもので、この場合、合計額に対して一度に贈与税が課される可能性があります。
このリスクを避けるためには、毎年贈与契約書を作成して贈与の意思表示を明確にするなどの対策が考えられます。
②手続き面の負担
不動産の持分贈与は毎回登記手続きが必要となり、登録免許税や司法書士報酬などのコストが何度も発生するため、手続きも煩雑になります。
このため、持分贈与を検討する場合には、税務リスクや費用対効果を含めて、税理士や司法書士などの専門家に相談するのがおすすめです。
他の相続人の遺留分侵害に注意
亡くなった人の配偶者など、一定の相続人には、遺産を最低限相続できる権利として「遺留分」が保障されています。
生前贈与をしたことによって、別の家族が相続できる遺産が減って遺留分を侵害すると、トラブルにつながる場合があるため注意が必要です。
生前贈与か相続かを選ぶ判断基準

親御さんの土地や家などの不動産について生前贈与を受けるか、遺産相続で引き継ぐかを判断する基準を紹介します。
不動産を生前贈与で引き継ぐ方が良いケース
土地を生前贈与で引き継ぐ方が適しているのは以下のようなケースです。
- 相続トラブルを避けたい
- アパートなどの収益物件が建っている
- 相続まで待たずに土地を早く活用したい
- 将来的に土地の価値が上がることが予想される
- 相続人以外を含む特定の人に土地を引き継ぎたい
相続トラブルを避けたい場合や、将来の評価額が上昇しそうな土地は生前贈与で引き継ぐのが適しています。
また、すでに親御さんがアパートなどを経営している土地は、家賃収入も相続財産に含まれるため、相続まで物件を所有していると遺産総額が増え、相続税も高くなってしまいます。
アパート事業を引き継ぐ予定なら、生前に贈与を受ければ相続財産を減らせる他、賃貸物件が建っている土地は後述する「貸家建付地の評価減」の特例が適用されて贈与税の負担も抑えられます。
不動産を相続で引き継ぐ方がよいケース
生前贈与ではなく相続で引き継いだ方が良いのは以下のようなケースです。
- 土地を含めた相続財産の評価額が基礎控除額以下
- 小規模宅地等の特例などの相続税節税制度を利用したい
- 土地を特定の相続人に引き継ぎたい
相続税の課税対象となる課税価格が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超えていない場合は、相続税がかからないため相続で引き継いだ方が税金面でお得です。
また、小規模宅地等の特例など、土地の相続税を大きく軽減できる特例を活用したい場合も相続で引き継ぐのがおすすめです。
特定の相続人に土地を引き継ぎたい場合は、被相続人が遺言書を作成すればスムーズな引き継ぎができます。
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不動産の贈与税を節税できる特例制度の活用法

生前贈与によってかかる贈与税を軽減できる「相続時精算課税制度」「貸家建付地の評価減の特例」について詳しく解説します。
相続時精算課税制度による贈与税の節税
相続時精算課税制度とは、生前贈与を受けた財産を相続財産に含めて相続税を計算する制度です。
〈相続時精算課税制度の主な特徴〉
- 非課税枠:2,500万円(生涯を通じて)。基礎控除110万円も併用可能。この枠内であれば贈与税はかかりません。
- 相続時の計算:非課税枠を使って贈与された財産も、相続時に他の財産と合算して相続税が計算されます。
- 利用要件:60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫への贈与など。
(参考)国税庁ウェブサイト「No.4103 相続時精算課税の選択」
上記のように、贈与額が非課税枠(2,500万円+110万円)以下であれば贈与税はかからず、相続財産全体の合計が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、相続税もかかりません。
親の土地にマイホームを建てたい、相続前に土地を収益化したいなど、贈与税を支払わずに早期に土地を活用したい場合に有効です。
ただし、一度この制度を選択すると、同じ人からの贈与については暦年課税(毎年110万円の非課税枠がある制度)には戻せなくなる点に注意して検討する必要があります。
(参考)国税庁ホームページ|No.4103 相続時精算課税の選択
貸家建付地の評価減の特例による贈与税・相続税の節税
貸家建付地による評価減の特例とは、アパートやマンションなどの賃貸物件が立つ土地(貸家建付地)に対して、借地権・借家権の割合を考慮して評価額を減額する制度です。
評価額が下がることで、結果的に贈与税や相続税の節税効果を得られます。
(参考)国税庁ウェブサイト「No.4614 貸家建付地の評価」
貸家建付地の評価額計算式
貸家建付地の価額 = 自用地としての価額 –
(自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
相続した親御さんの土地にアパートが建っていた場合の評価額をシミュレーションの一例を紹介します。
〈条件〉
- 自用地の評価額:3,000万円
- 借地権割合:70%
- 借家権割合:30%
- 賃貸割合(建物全体に対して人に貸している部分の割合):80%
〈計算〉
3,000万円 – (3,000万円 × 70% × 30% × 80%)= 2,496万円
上記の例では、自用地に対して、貸家建付地の相続税評価額は504万円低くなります。
さらに空室を埋めると賃貸割合が高くなるため、節税効果も大きくなります。
親の土地を相続する予定があるなら、アパートなどの賃貸物件を建てることで、贈与税や相続税を抑えられます。
生前贈与による名義変更手続きの流れと必要書類

不動産の生前贈与を実施する際の流れと、必要な手続きを解説します。
①贈与契約書の作成・締結
贈与を受けるときは、後々のトラブルを防ぐため、実際に贈与が行われた証拠となる贈与契約書などの書面を残すことをおすすめします。
〈贈与契約書に記載する項目〉
- 贈与契約締結日(贈与を行った日)
- 贈与者の氏名・住所
- 受贈者の氏名・住所
- 贈与財産に関する情報
- 贈与方法
贈与契約書は2通作成し、贈与者と受贈者でそれぞれ保管するようにしましょう。
②登記申請書類の準備
生前贈与の場合に必要な書類を準備します。
③法務局で登記申請
準備した書類を法務局に提出して登記申請を行います。
④登記手続き・名義変更完了
登記が完了すると、不動産の名義が受贈者に変更されます。
まとめ
親御さんが生きているうちに不動産の名義変更をすべきか、相続時にすべきか、どちらが良いかはケースバイケースで、さまざまな要素を踏まえて総合的に判断する必要があります。
不動産を引き継ぐ予定がある場合は、相続発生前に生前贈与や活用の計画を立てておくことで、税金や手続きの負担を抑えながら、スムーズに土地を引き継いで有効活用できます。
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